破壊衝動
そのときの僕はきっとどうかしていた。
何でも良かった。
誰でも良かった。
とにかく、何かを壊したかった。
計画なんてない。目的なんてない。今後のことなんて知らない。
ストレスが溜まっているわけでもなければ、嫌なことがあったわけでもない。
突然、壊したくなった。
深夜、誰も出歩かないような時間の、誰もいないような場所へ行く。
肩に提げたカバンの中には、ナイフや金槌や釘や、他にもいくつもの、何かを壊すのに使えそうな道具が入っていた。
知らなかったんだ、この街・この世界には、こんなにも理解できないことがあるなんて。
だって、こんな時間、こんな場所に、人がいるなんて。
しかも、男女二人、そしてその背中。
黒 く 大 き な 、蝙 蝠 の 翼 の 様 な も の が 生 え て い る 。
でも、それだけだ。意味なんてない、僕にとっては。
いや、もしかしたら、あるのかもしれない。だって、こんな日にこんなところにいるなんて。
まるで
僕 に 壊 さ れ る た め に そ こ に あ る 様 な 気 が し な い か い ?
い や 、 そ う に 決 ま っ て い る 。
迷わずナイフをカバンから出し、男女目掛けて飛び掛る。
よくよく見れば、二人とも、肌の色が薄く、不気味に美しい。
その白い肌を、僕 が 紅 く 染 め る ん だ 。
いや、染められるのは、僕の方かもしれない。
でも、それでもいいんだ。
その時はその時で、僕 が 、 僕 を 壊 し た の と 同 じ 事 に な る の だ か ら 。
そして不思議と、僕が壊される姿だけが容易に想像できる。
ということは。
「死ぬのは、僕か」
「そういうこと。いきなり飛び掛ってきて、礼儀のなっていない子だね」
何で僕が殺されなきゃいけないのか、なんて思わない。
これが、きっと僕 の 望 ん だ こ と な の だ か ら 。
ナイフを持つ手を叩かれ、ナイフを落とす。
そのナイフを、男が拾って僕のわき腹を切り裂く。
嗚呼、何て素晴らしい快感なのだろう。
痛みが引く前に、女の方が僕の首に噛み付く。
背中の翼といい、この人達はきっと吸血鬼なのだろう。
実際こうして目の前にしても、信じられないが。
でも、やっぱり関係ない。
だって、これで僕は壊れるのだから。
これで僕は壊されるのだから。
これで、僕を壊すのだから。
これで、僕は……。
「まったく、威勢のいい餓鬼だ」
「お陰で、久々の食事だったけどね」
「ああ。
……ありがとう、すまなかったな」